いちばん星と御曹司
桃
一通り食材を食べ切り、あたしと一星さんはキャンプ用のイスで寛ぎながら食後のコーヒーを飲んだ。本当はビールが良かったけど運転があるから、と残念そうに言う一星さんを見て、今度はどこか近場でお酒でも飲みに行こうかなんてあたしは考えてた。
目の前には、パチパチと燃える焚き火。炎の動画を延々と見続ける人の気持ちが、ちょっとわかる気がする。
「桃さんは、本当に今の仕事が好きなんですね」
あたしの話を終始楽しそうに聞いてくれた一星さんが微笑んだ。
「そんなに好きなのに、ご実家を継ぐんですか?」
「……まあ。そうせざるを得ない状況なんで。本当は、姉とその婚約者が継ぐはずだったんです。でも色々上手くいかなくて」
今だって、あの家は優斗君と杏が継ぐべきだと思ってる。でも。
「あたし、影なんです」
「影?」
「そう。杏が光で、桃は影。昔からそう決まってたんです。どうしたって姉にはなれないし、代わりもできない。婚約者だって、あたしじゃなくて姉しか見てなかった——でも仕方ないんです、あたしは薬師寺家の本当の娘じゃないから」
「——え?」
一星さんの表情が変わった。
そう。あたしは、薬師寺社長の再婚相手の連れ子だ。先妻、つまり杏の母親は早くに亡くなって、あたしの母親は三つだったあたしを連れて薬師寺家に嫁いだ。それなのに、金持ちの家は性に合わないからとあたしを置いてさっさと出て行ってしまった。今思うとめちゃくちゃ勝手な人だ。だから杏とあたしは年齢こそ偶然同じだけど、血は繋がっていない。母親が出て行って、てっきりあたしも追い出されるかと思ったのに、薬師寺社長は行き場を無くしたあたしをそのまま娘として育ててくれた。杏も、あたしを本当の妹のように接してくれた。だからあたしは、薬師寺家と杏を裏切ることはできなかった。
「じゃあ、その金髪はもしかして、反抗の表れ……?」
一星さんがあたしの髪を見て言う。
「まあ、そんなとこです。反抗っていうか、こうしたらハミダシモノに見えるでしょ? その方が色々都合が良かったんです」
桃は器用だ。桃の方が度胸もある。きっと将来、良い後継者になれる——そんな父の思惑を、どうにかして潰す為だった。あたしなんかがこの家を継いだら、それこそ杏にもらった恩を仇で返すようなもんだ。結果的にあたしの作戦は上手くいったし、あたしはちっとも後悔してない。でも、まさかこんな形で家を継ぐ羽目になるとは。
「似合ってます」
「え?」
一星さんが笑った。
「その金髪。桃さんに良く似合ってます。桃さんらしくて、僕は好きです」
「ありがとう、ございます……」
そういえば出会った頃、久保っちも同じようなことを言ってくれたっけ。あれ、地味に嬉しかったんだよなぁ。ていうか、さっきから久保っちのこと思い出しすぎだな、あたし。
「僕も——話していいですか? 僕のこと」
パチパチと燃える炎に、一星さんの頬がオレンジに照らされた。
目の前には、パチパチと燃える焚き火。炎の動画を延々と見続ける人の気持ちが、ちょっとわかる気がする。
「桃さんは、本当に今の仕事が好きなんですね」
あたしの話を終始楽しそうに聞いてくれた一星さんが微笑んだ。
「そんなに好きなのに、ご実家を継ぐんですか?」
「……まあ。そうせざるを得ない状況なんで。本当は、姉とその婚約者が継ぐはずだったんです。でも色々上手くいかなくて」
今だって、あの家は優斗君と杏が継ぐべきだと思ってる。でも。
「あたし、影なんです」
「影?」
「そう。杏が光で、桃は影。昔からそう決まってたんです。どうしたって姉にはなれないし、代わりもできない。婚約者だって、あたしじゃなくて姉しか見てなかった——でも仕方ないんです、あたしは薬師寺家の本当の娘じゃないから」
「——え?」
一星さんの表情が変わった。
そう。あたしは、薬師寺社長の再婚相手の連れ子だ。先妻、つまり杏の母親は早くに亡くなって、あたしの母親は三つだったあたしを連れて薬師寺家に嫁いだ。それなのに、金持ちの家は性に合わないからとあたしを置いてさっさと出て行ってしまった。今思うとめちゃくちゃ勝手な人だ。だから杏とあたしは年齢こそ偶然同じだけど、血は繋がっていない。母親が出て行って、てっきりあたしも追い出されるかと思ったのに、薬師寺社長は行き場を無くしたあたしをそのまま娘として育ててくれた。杏も、あたしを本当の妹のように接してくれた。だからあたしは、薬師寺家と杏を裏切ることはできなかった。
「じゃあ、その金髪はもしかして、反抗の表れ……?」
一星さんがあたしの髪を見て言う。
「まあ、そんなとこです。反抗っていうか、こうしたらハミダシモノに見えるでしょ? その方が色々都合が良かったんです」
桃は器用だ。桃の方が度胸もある。きっと将来、良い後継者になれる——そんな父の思惑を、どうにかして潰す為だった。あたしなんかがこの家を継いだら、それこそ杏にもらった恩を仇で返すようなもんだ。結果的にあたしの作戦は上手くいったし、あたしはちっとも後悔してない。でも、まさかこんな形で家を継ぐ羽目になるとは。
「似合ってます」
「え?」
一星さんが笑った。
「その金髪。桃さんに良く似合ってます。桃さんらしくて、僕は好きです」
「ありがとう、ございます……」
そういえば出会った頃、久保っちも同じようなことを言ってくれたっけ。あれ、地味に嬉しかったんだよなぁ。ていうか、さっきから久保っちのこと思い出しすぎだな、あたし。
「僕も——話していいですか? 僕のこと」
パチパチと燃える炎に、一星さんの頬がオレンジに照らされた。