いちばん星と御曹司
候補者
心の準備も何も無いまま、父によって着々とお見合いの準備は進められていた。再び実家に呼び出されたあたしの目の前には、三枚のファイルが並んでいる。
「婿養子候補はこの三人だ。写真と、経歴をまとめてある。会う前に目を通しておきなさい」
まだ会うなんて了承してないってのに。あたしの脳内彼氏は完全無視ってワケか。
「今時見合いとか……。昭和かよ」
「何か言ったか」
「別に?」
気は進まないが、見るだけ見ておこう。どれどれ、まず一人目は——。
江角真喜男、二十七歳。K大卒。歳は近いな。江角食品の社長子息……。江角食品といえば、アクロス・テーブルのライバル社だ。あたしがライバル社の社員て知ってるのかな。ていうか、うわっ。何この写真⁉︎ めっちゃダサいポーズ! それにすごいキツネ目。キノコみたいな頭もヤバい。これ、本人はイケてると思ってんだろうなぁ……。
なんかもう嫌になってきた。ええと二人目は——。
宮下直人、宮下グループ社長子息。T大卒。宮下グループといえば、優斗君とこの東雲グループと同じくらい有名な家だ。宮下の業績は右肩上がりで、そのせいで東雲が落ち込んでいるとか何とか。——って、えっ! この人、アラフィフじゃん! この写真いったいいつ撮ったやつ……?
ダメだ。やっぱり薬師寺精糖の「次女」と結婚したい男なんて、ロクなのいない。そりゃそうだ。これが杏なら、話は別だろうに。
三人目はどんなヤツか——。
片野坂一星、三十四歳。片野坂財閥の一人息子。海外暮らしが長く、社交界にはほとんど姿を見せていない為詳細は不明……って。
「ねえ、お父さん。片野坂財閥って……?」
社交界になんかほとんど顔を出していないあたしだって、江角や宮下の名前くらいは知ってる。でも「片野坂」は聞いたことがない。
「一昔前は誰もが知った財閥だったが、今やもう世間にはほとんど忘れられているだろうな。私も現社長とは会ったことが無い。まして息子がいたなんて、今回初耳だったんだがな。是非とも息子を婿養子にとわざわざ手紙を頂いたんだよ」
「え……。そんな廃れた財閥、大丈夫なの?」
「大丈夫だろう。廃れてはいるが、知る人ぞ知る財閥だ。身元は確かだぞ」
「この片野坂さんだけ写真が無いんだけど」
「ああ。何でも最近まで外国にいたから、幼少期のものしか無かったらしくてな」
……外国でもスマホで写真くらい撮れまっせ、と思ったけど、この間の自分の苦しい言い訳を思い出して、言うのをやめた。ヤブヘビになりかねない。
「とりあえず、三人全員と会ってこい。まずは二人で会って、お前が気に入った人と最終的に私が会おう。それでいいな?」
てっきり親同士を交えて料亭で「カポーン」みたいなのを想像してたから、あたしはいくらかホッとした。
「わかった、いいよそれで。日取りだけ勝手に決めといて。あ、仕事の日は外してよ」
わかったわかった、と言いながら父は席を外した。
あらためて、目の前に並んだ三人の資料に目をやる。気に入る人なんて、この中にいるわけない。父には悪いけど、あたしは断られる気満々だし、そうでなきゃこっちから断ってやる。
この時のあたしは、本気でそう思ってた。
「婿養子候補はこの三人だ。写真と、経歴をまとめてある。会う前に目を通しておきなさい」
まだ会うなんて了承してないってのに。あたしの脳内彼氏は完全無視ってワケか。
「今時見合いとか……。昭和かよ」
「何か言ったか」
「別に?」
気は進まないが、見るだけ見ておこう。どれどれ、まず一人目は——。
江角真喜男、二十七歳。K大卒。歳は近いな。江角食品の社長子息……。江角食品といえば、アクロス・テーブルのライバル社だ。あたしがライバル社の社員て知ってるのかな。ていうか、うわっ。何この写真⁉︎ めっちゃダサいポーズ! それにすごいキツネ目。キノコみたいな頭もヤバい。これ、本人はイケてると思ってんだろうなぁ……。
なんかもう嫌になってきた。ええと二人目は——。
宮下直人、宮下グループ社長子息。T大卒。宮下グループといえば、優斗君とこの東雲グループと同じくらい有名な家だ。宮下の業績は右肩上がりで、そのせいで東雲が落ち込んでいるとか何とか。——って、えっ! この人、アラフィフじゃん! この写真いったいいつ撮ったやつ……?
ダメだ。やっぱり薬師寺精糖の「次女」と結婚したい男なんて、ロクなのいない。そりゃそうだ。これが杏なら、話は別だろうに。
三人目はどんなヤツか——。
片野坂一星、三十四歳。片野坂財閥の一人息子。海外暮らしが長く、社交界にはほとんど姿を見せていない為詳細は不明……って。
「ねえ、お父さん。片野坂財閥って……?」
社交界になんかほとんど顔を出していないあたしだって、江角や宮下の名前くらいは知ってる。でも「片野坂」は聞いたことがない。
「一昔前は誰もが知った財閥だったが、今やもう世間にはほとんど忘れられているだろうな。私も現社長とは会ったことが無い。まして息子がいたなんて、今回初耳だったんだがな。是非とも息子を婿養子にとわざわざ手紙を頂いたんだよ」
「え……。そんな廃れた財閥、大丈夫なの?」
「大丈夫だろう。廃れてはいるが、知る人ぞ知る財閥だ。身元は確かだぞ」
「この片野坂さんだけ写真が無いんだけど」
「ああ。何でも最近まで外国にいたから、幼少期のものしか無かったらしくてな」
……外国でもスマホで写真くらい撮れまっせ、と思ったけど、この間の自分の苦しい言い訳を思い出して、言うのをやめた。ヤブヘビになりかねない。
「とりあえず、三人全員と会ってこい。まずは二人で会って、お前が気に入った人と最終的に私が会おう。それでいいな?」
てっきり親同士を交えて料亭で「カポーン」みたいなのを想像してたから、あたしはいくらかホッとした。
「わかった、いいよそれで。日取りだけ勝手に決めといて。あ、仕事の日は外してよ」
わかったわかった、と言いながら父は席を外した。
あらためて、目の前に並んだ三人の資料に目をやる。気に入る人なんて、この中にいるわけない。父には悪いけど、あたしは断られる気満々だし、そうでなきゃこっちから断ってやる。
この時のあたしは、本気でそう思ってた。