いちばん星と御曹司

一人目

 あたしは基本的にカレンダー通り出勤しているので、お見合いは必然的に土日に当てがわれた。
 一番初めに会うことになったのは、江角食品の江角真喜男。あのクソダサ……じゃなくてちょっと変わった見た目の。三人の中じゃ一番歳も近いことだし、案外気軽に話せるかもしれない。そう思って臨んだお見合いは、開始からものの十分で終了した。何があったかって、思い出しても腹が立つ。あのクソキノコ。
「うわっ、何だいその髪は」
 初めましてより先に江角から飛び出したのがその一言だった。
「何って。髪の毛ですけど」
 キノコ頭に言われたくない、と言いたいところを堪えてあたしは答えた。
「じゃなくて、その金髪だよ! 何て品が無いんだ? 君、もしかしてそれで仕事行ってるの?」
「もちろん。そうですけど」
「うわ、信じられないな! だからアクロス・テーブルさんは冷凍食品みたいなくだらない商品しか作れないんだ。こんな品の無い社員を許しているから。その点、我が社は高級スーパーで扱うような優れた商品を開発していてね。大体、あそこの社長や専務もちょっと顔が良いだけで大したことないもんな。ねえ君知ってる? あの専務、自分より一回りも歳上の女性社員と結婚しただろ? あれって女の方の金目当てらしいよ。馬鹿だよな、そんなことも見抜けないなんて。その点僕は——ぐほっ⁈」
 たまらず、江角の大事なトコロを蹴り上げてしまった。足癖の悪さが出たのは小学生以来だ。あたしはともかく、あたしの会社やあたしの大切な人たちの悪口は許せなかった。
「なっ……、き、君っ、何なんだ⁈ ほん、とうに……、薬師寺、の、令嬢か⁉︎ こんな、こんな品の無い……」
 地面にうずくまって悶えるキノコに向かって、あたしは吐き捨てた。
 
「品が無いのはあんただよ。二度とあたしの前に現れんな、このクソキノコ!」
 
 
 その夜、父にこっぴどく叱られたのは言うまでもない。でもあたしは間違ってない。思ってた形とは違ったけど、とりあえずこれで一人目はクリアした。
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