それらすべてが愛になる
 パウダールームは、着替えを取り出すためにスーツケースを開けても余裕の広さで、ここだけで一部屋になるのではないかと思えるほどだった。

 清流は濡れた服と借りていた上着をかごに入れて、そっとドアの外に出す。

 (きっとバスルームも広いんだろうな。ジャグジー付きで、バラの花びらとか浮かんでたりとか?)

 そっとバスルームのドアを開けると、大理石の浴室に立派なジャグジー付きの浴槽が二つ、中にはすでにお湯が張られている。

 (嘘でしょ……)

 さすがにバラの花びらはなかったけれど、それ以外はすべて想像通りの光景で軽く目眩がした。


 ガラス張りのシャワールームで軽くシャワーを浴びてから、そっとつま先から湯船に入る。熱すぎず温すぎない、ちょうどいい温度だ。

 「帰る時間に合わせてお風呂を溜めてくれるサービスなんてあるんだ、すごいなぁ」

 思わず呟くと想像以上に声が反響して、慌てて口を噤む。


 助けてもらったとはいえ、成り行きでよく知らない男の人が泊まる部屋でお風呂に入っている。

 死んだ両親が見てたら泣いているかもしれないな、なんて想像して苦笑してしまう。

 ――ごめんね、いろいろ親不孝な娘で。


 悪い人、ではないと思う。むしろいい人だ。
 何でこんな自分を助けてくれたんだろう。


 (何だか掴みどころがない、不思議な人)


 肩まで浸かると、雨で冷えた体がじんわりと温まっていく。

 何だかとんでもない展開になっているような気がしつつも、一日でいろいろありすぎて今は少しだけ考えることを放棄したい。

 清流はいっとき、心地良さに身を任せて目を閉じた。

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