それらすべてが愛になる
 「そんなの迷惑だしだめです、っていうか無理です!というか、何でそんな話に…っ!?」

 「そうじゃなかったら、わざわざ恋人同士のふりなんか面倒なこと頼まない。コンシェルジュを通したのも宿泊手続きのためだし。それに今、外を見てたなら分かると思うけどもう夜だぞ」

 「それはそうですけど、じゃあせめて他の部屋を、」

 「一応聞いたけどこのホテルも満室。復活祭に合わせて先週から旅行客が増えてるんだと。ただ明日には少し空きが出るらしい」

 明日では困る。そもそもこんな高級ホテルでは、一番安い部屋でも泊まれるか分からないけれども。

 「あぁ、寝る場所なら寝室は二つあるから心配しなくていい」

 「いえ、そういうことではなくっ!あの、やっぱりだめです、この周辺が無理なら他の駅の方とか行って探してみますから…っ!?」


 不意に右腕を掴まれて、体が支えていられないほどの力で引っ張られた。

 片方の肩を押されて、清流は反射的に目をつぶる。

 あっ、と声が出るよりも先に身体が宙に浮いたと思うと、次の瞬間には背中がソファーのスプリングで跳ねてそのまま沈み込んでいた。

 恐々と目を開けると、洸が見下ろしている。
 間近に迫る顔にたじろぐも、肩と右腕は押さえられたままで身動きが取れない。

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