それらすべてが愛になる
 「か、加賀城さん…酔ってたりしますか?」

 「まだ飲んでねぇよ。それより抵抗しないわけ?」

 「……そう、ですね」

 冗談では、ない。こちらを窺う眼差しはどちらかといえば真剣な顔つきで、清流にはその表情の奥が読み取ることができなかった。

 清流は自分が置かれている状況を処理するべく、脳内をフル回転させる。


 この状況はつまり――『そういうこと』なのだろう。

 逃げなくては、と思うのに体がまるでいうことを聞かない。

 そもそもここまで着いてきて、お風呂まで借りたのは自分だ。
 それでも抵抗する資格なんてあるのだろうか。

 体に入っていた力がふっと抜けると、洸の形のいい眉が歪む。

 それは清流の手が微かに震えていたせいだったのだが、清流自身は自覚がないまま見上げていると、腕と肩を押さえ込む手に力が込められた。


 「あのな。海外で、夜に、土地勘のない旅行者の女が一人で宿探しするっていうのは、こういうことになる可能性があるってことだ。言ってる意味は分かるよな?」

 諭すような声音に、清流は小さく頷く。

 「心配しなくても、こっちはお前みたいな濡れネズミに欲情するほど困ってないから、大人しく世話になっとけ」

 今、さりげなく失礼なことを言われた気がする――反論はしなかったものの表情には出ていたのか、真面目に聞けとばかりに洸は清流の頬を軽くつねった。

 「聞いてるなら、返事は」

 「………はい」

 返事を聞いて洸が上から退くと、清流は張っていた糸が切れたように細く息を吐き出した。


 一方の洸は、ソファーに座り直して長い脚を組むと、テーブルの上の分厚いルームサービスのメニューを手に取ってめくり始めている。

 「柄でもない説教したら腹が減った。食いたいもの片っ端から頼むから、責任取って付き合えよ?」

 どうやらNOという選択肢はなさそうだ。

 そう悟った清流は、そろそろとゆっくり起き上がった。

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