それらすべてが愛になる
 グラスに口を付けつつ頷くと、清流って歳いくつ?と聞かれる。

 「二十三、今年で二十四です」

 「じゃあ院生?四月のこの時期に旅行って珍しいから気になってた」

 その疑問はもっともだった。
 学生なら新学期が、社会人なら新年度が始まったばかりで、大型連休にも早いこの時期に旅行しているのは不思議に映るのは当たり前だ。

 「いえ、大学は三月で卒業しましたけど…社会人でもないです」

 「何学部?」

 「経営学部です」

 清流は手の中のワイングラスをくるくると回しながら、どう話そうかと悩む。
 洸はチーズをつまみながら空になったグラスにワインを注いでいて、無理に話の先を急かすことはしなかった。

 「実は、大学を一年ちょっと休学していたんです。就活でもその辺りをかなり聞かれまして、もちろんそれだけが原因じゃないとは思うんですけど、最終までいって駄目だったりとか。就活もギリギリまでしてたんですけど結局上手くいかなくて…。
 いろいろ疲れちゃって、それで一度行ってみたかったローマに旅行しようと思って来たんです。それに、」

 「それに?」

 「いえ、何でもないです」

 変に思われるだろうかと思ったが、目が合った洸は「苦労してるんだな」と呟いて、それ以上何も言わなかった。

 特に態度が変わることはなくて清流はふぅと安堵の息をつく。

 自分の事情を話すとたいてい質問攻めにあってきたので、必要以上に詮索されないということが、今の自分にとっては助かることだった。

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