それらすべてが愛になる
 「最初に言っとくけど、何もなかったから心配すんな」

 「それはしてないですけど…あの、昨日の記憶があんまりなくて」

 美味しいマルゲリータピザを食べたことは覚えている。生ハムと季節の野菜がのった菜園風サラダも美味しかったし、パスタやお肉も。

 そんなことをぽつぽつ呟くと、食い物の記憶だけかよ、と呆れたようにぼやかれる。

 「あのあと喋りながらソファーで寝たんだよ。しばらくしたら起きるかと思って、風呂入って戻ってきても爆睡してたからベッドに運んだ。そしたら、」

 「そしたら?」

 「バスローブ掴んで離さなかったんだよ。意外と力強いのな?だからどうしようもなかった」

 聞けば聞くほど、なかなかの失態だ。
 記憶にはなくともその光景を脳裏に思い浮かべるだけで、穴があったら埋もれたいくらいに恥ずかしい。

 「重ね重ね、すみません…」

 「何だよ急にしおらしくなって」

 洸は体を起こして清流の頭を軽くぽんぽんと叩く。

 「時差もあるし、トラブルもあって疲れたんだろ。気にすんな」

 洸はそれだけ言ってベッドから降りると、顔洗って支度しろよと声を掛けてから部屋を出て行った。

 その後ろ姿を見送って一人ベッドの上に残される。

 頭に残る大きな手の感触に、あとからじわじわと顔が熱くなった。


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