それらすべてが愛になる
 顔を洗って歯を磨いて、服を着替えて髪を整える。

 どれも普段より少しだけ丁寧に。それで昨夜の失態が取り消されるわけではないけれど、恥の上塗りだけは避けたい。

 部屋から出ると洸もスーツに着替え終わっていた。
 何か食べるかと聞かれたけれど、昨夜食べ過ぎたせいかあまりお腹が空いていない。

 「だよな、俺もまだ腹いっぱいだわ。飲み物なら冷蔵庫にあるから好きなの取っていい」

 「ありがとうございます」

 清流はお礼を言ってから冷蔵庫を覗いて、オレンジジュースをもらうことにした。冷たいジュースがお酒の残った体に染みていく。

 「加賀城さんは今日日本に帰るんですよね?」

 「そう。そっちは?」

 「三泊四日の予定だったので明後日帰る予定です」

 今日は雲一つない快晴で、窓の外ではすでに多くの人たちが道を行き交っているのが見える。

 「やっぱり観光客が多いんですね」

 「今日この辺りは名所も多いからな。オペラ座が目と鼻の先だし、少し行けばトレビの泉とスペイン広場がある」

 「え、そんなに近いんですか?」

 どちらもローマに来たら行きたいと思っていた場所だった。

 「ここからなら歩いて十五分くらいで行ける。行くか?」

 「え?」

 「昨日はホテル探しでどこも行けてないんだろ。俺も昼に迎えに来るまで暇だし、それに」

 「それに?」

 「あの辺りはとにかくスリが多い。一人でぼーっと歩いてたら財布の一つや二つすぐスられるぞ」

 確かにガイドブックにもスリが多いとは書かれていた。
 どうしようかと悩むも、仕事で来慣れていて現地の言葉が話せる洸がいてくれるのは心強い。

 「えっと、お願いします」


 そうと決まってからの、洸の行動は早かった。

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