それらすべてが愛になる
 クリーニングに出していた服を届けてもらい、それと同時にレセプションにスーツケースを預ける手筈を整えてくれる。観光の間、両手が空くのはとてもありがたい。

 荷物を受け取りにもう一度ホテルに戻ってくることになるので、先にスペイン広場に向かい、トレビの泉を訪れるルートになった。


 そしてホテルを出てからは、イタリアの街歩きの心得、ならぬ防犯対策を教わりながら歩く。

 「ここはスリも多いけど押し売りも多い。話しかけられても無視しろ。目を合わせるな、何か押しつけられても絶対に受け取るな。受け取ったら最後、ぼったくりのような金額を要求される。
 相手が子どもでも油断はするな。あと相手が何か落としても拾うな。その隙に何か盗られるから」

 そんな大げさな…と思ったけれど、本当だった。

 しばらくはビジネスマンのような人も多かったけれど、観光名所が近づくにつれてそういった人たちに遭遇する確率がぐんと上がっていく。
 自然ににこやかに、世間話をするみたいに話しかけてくるからうっかり相手をしてしまいそうになる。

 洸が防波堤のように清流の一歩先を歩いてくれているものの、それを搔いくぐって次から次へと何かを押し付けるように手が伸びてくる。
 特に花や鳩のエサ、ミサンガ、何だかよく分からないお守りのようなもの…


 その勢いに清流は圧倒されつつ、どうにかスペイン広場を抜けて、目的のトレビの泉に到着した。


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