それらすべてが愛になる
 「うわぁ、すごいですねえ!」

 一度は訪れてみたかった場所を目の前にして、清流は辿り着くまでの大変さも吹き飛んだ。
 想像以上の大きさと彫刻の細かさ、そして泉の透き通った青さに感嘆の声が出る。

 ぶつからないように噴水の周辺へと進むと、写真を撮る団体客や、おしゃべりや自撮りをする人など、とにかく多くの人がひしめいていた。

 外で財布は出すなという洸の忠告で、事前にポケットに用意しておいた小銭を一枚取り出すのを、洸が不思議そうに見やる。

 「何に使うんだ?」

 「え、知りませんか?噴水にコインを投げ入れるジンクスです。ここに来たらやってみたくて!」

 確かに聞いたことはある。
 背中を向けて後ろ向きにコインを投げ入れたら、もう一度ローマに戻って来ることができる、だったか。

 「やったことはないんですか?」

 「無いな。そもそも仕事で来ていて観光に来ているわけじゃないし」

 「それならせっかくですしやりましょうよ!」

 憧れの場所に来られたせいか清流のテンションが高い。
 洸はまさかの提案に面食らいつつ、はい、と手渡された硬貨を受け取る。

 この場所は、前の道を車で通ったことなら何度もあった。
 初めて見たのがいつだったか忘れたが、ここがあの有名な場所かと思った記憶はある。けれど何度も訪れるたびに、その感動は当然ながら薄れてしまった。

 そのせいか、自分とは対照的に目を輝かせて感動している清流の姿を見ると、乗っかってやってもいいか、という気になってくる。

 噴水に気を取られて、あまり周りが見えていない清流の代わりに周囲に目を配りつつ、洸は受け取ったコインを軽く指で弾いた。

 弾かれたコインは綺麗な放物線を描いて、噴水の中に落ちていく。

 「あ、ちゃんと落ちましたよ!よかったですね」

 「まあ、こんなことしなくてもまた出張で来るんだけどな」

 「そういうことじゃないですってば!」

 そう言って、清流は少しむくれる。
 想像した通りのリアクションを返すのがおかしくて、洸は微かに口角を上げた。


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