それらすべてが愛になる
 「今度は自分がやれば?ほら」

 「あっ、そうですね」

 傍らの清流にそう声を掛ければ、顔を上げてポケットに手を入れた。写真を撮るのに夢中になって一瞬忘れていたらしい。

 噴水を背にすると、洸のやり方を真似するように指で弾く。が、コインは高く上がることなく、後ろではなく前に飛んで地面へと転がった。

 「あ、あれ?」

 「……くっ、下手くそだな」

 「笑わないでくださいっ、今のってカウントされちゃいますかね?」

 「さあ、もう一回やれば大丈夫じゃねえの?」

 何の根拠もないのだが、言ってしまえばそもそもこのジンクスにも根拠はないわけで。

 足元に転がったコインを拾って渡すと、少し恥ずかしそうに受け取る。

 気を取り直して噴水の淵に座ると、指で弾くなんて慣れないやり方ではなく肩越しに投げることにした。きっとその方が確実だ。


 (またいつか、この場所に来られますように)


 右手に握ったコインを、肩越しに投げ入れる。

 周りの喧騒に掻き消されそうになりながらも、今度は泉の中へ落ちる音が耳に届いた。


 「できた、今入りましたよね加賀城さん!」


 成功して、思わず自然と笑みがこぼれる。

 少し身を乗り出して泉の中を覗いてから、同意を求めるように洸を見るとーーこちらを見たまま固まっていた。

 「あの加賀城さん、どうかしましたか?」

 清流が首を傾げると、洸は弾かれたようにこちらを見てようやく目が合った。

 「いや、別に…よかったな。混んできたしそろそろ行くか」

 清流の頭をぽんっと叩くと踵を返したので、清流も慌ててその後について行く。少し早歩きで洸の隣りに並ぶと、洸の顔を盗み見た。

 「何?」

 「あ、いえ、何でもないです」


 さっきのは自分の気のせいか。

 そう思い直して、清流はホテルに戻るまでの道を歩いた。


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