それらすべてが愛になる
 ちょうどホテルに戻ってきたとき、洸のスマートフォンが鳴った。

 「今?エントランスにいる。はいはい、じゃあよろしく」

 おそらく迎えの車が来たのだろう。

 自分もそろそろ今日と明日の泊まる場所を探さないといけない。電話を切った洸に向き直ると頭を下げた。

 「あの、本当にいろいろご迷惑をおかけしてすみません。でも、ありがとうございました」

 「ん、いいよ。けど街歩くときは気をつけるのと帰国するまで油断すんな。家に着くまでが旅行だからな」

 「そんな遠足みたいな…」

 冗談ぽく笑う洸の表情に、やっぱり綺麗な人だなと思う。

 何だか少し寂しいような名残惜しいような――そんな気持ちが湧き上がってきて、清流はそれを振り払うようにもう一度深くお辞儀をした。

 預けたスーツケースを取りに行くためにレセプションへ向かおうとしたとき、

 「清流」

 と呼び止められた。


 (……え、、)


 初めて、名前を呼ばれた。


 「えっ、急に、何で名前…」

 「昨日言っただろ、ここでは恋人同士でいくって」

 「その設定まだ続いてたんですか…!?」

 「そう、ここ出るまで忘れんなよ?」

 にやりと笑った洸から、一つの封筒を渡される。

 「これは?」

 「レセプションで見せたら分かる。じゃあそろそろ行くから」

 「ちょっと待ってください…っ、」

 洸はそれだけを言うと、じゃあなと軽く手を上げてエントランスを出て行ってしまった。


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