それらすべてが愛になる
 『……私今はもう結婚なんて考えてないです。それより就職先を見つけて、』

 『そんなこと言って、いつまで経っても見つからないじゃない』

 『それは……』

 『いいのよ別に、私たちに相談しないで好きなところに就職して出て行ってくれても。でもそれじゃあ将来安心してあなたに会社を任せることなんてできないわ。こっちは大学まで出してやったっていうのに』

 実際、決まりかけた就職先がなかったわけではない。
 ただいざ直前になって相談すると、そこでは『条件に合わない』と却下されてしまっていた。せっかく高い学費を出して大学まで行かせたのを無駄にするな、一流企業でないと認めないという意思表示だった。

 (学費学費って、私もアルバイト代から出していたのに…)

 けれど、休学後も生活費やアルバイト代で足りない分の学費は出してもらっていたのは事実なので、それは言えなかった。

 もともと経営学部を志望する段階からいい顔はされていなかった、いやそれどころかーー清流は首を振る。今はこれ以上考えるのはやめよう。


 そんなものを無視して就職し、家を出ればよかったのかもしれない。
 けれど、もし用意した縁談話がまとまれば『会社を譲る』と一筆書いてもいい、という言葉がその決心を鈍らせた。


 叔母夫婦の手に会社が渡ってから、年々経営状況はあまり芳しくないと聞く。
 急がないと人手に渡ってしまうのではないか。そうなったら清流の手ではどうしようもなくなってしまう。


 そうなる前に、父の会社を取り戻したい。
 そのために休学をしても学費に困っても、大学で勉強を続けたのだ。

 残された時間は多くない――そう思った。

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