それらすべてが愛になる

4. その再会は希望か

 状況が飲み込めていない清流をさらに困惑させたのは、洸の後ろから佐和子が現れたことだった。

 「あんな素敵な方がいたことをどうして隠していたのよ?言ってくれていたら、私だってこんな場を設けたりしなかったわよ?」

 驚きで声も出ない清流を横目に、佐和子は上機嫌でごめんなさいねえ、と善弥を急き立てるようにして立たせている。

 「それじゃあ私は行くから、あとはうまくやんなさいよ。あなたは何も心配しないで、加賀城さんに言われた通りにすればすべてうまくいくから」

 そう早口で囁くと、善弥を連れて出て行ってしまった。


 そうして部屋には、清流と洸だけが残される。

 (別人か、他人の空似?でも叔母さんも『加賀城さん』って…まさかの双子の兄弟、ってそんなわけないか…)

 まさか、こんなところで会うなんて。

 洸は立ったまま、鴨居に手をかけて坪庭を覗いている。
 やっぱり背が高いな、と何だか場違いなことを考えていると、清流は一つ重大なことを思い出して声を上げた。

 「あのときの、ホテル代っ…!」

 清流の声に洸が振り返る。

 「再会して開口一番がそんな話か。色気ないな」

 「そんなって大ごとですよっ、」

 そのとき座敷の襖が開いて、さらに言い連ねようとした口を噤む。
 床に手を付いた中居が一度頭を下げてから声をかけたためだ。

 「失礼いたします、こちらへお飲み物をお待ちいたしましょうか?」

 「いえ、これから中庭へ出ようと思いますので、靴をこちらにお願いできますか」

 「それはようございます。ただいまお持ちいたしますね」

 玄関で脱いだ履物を取って戻ってきた中居が廊下のガラス戸を開ける。
 聞けば、廊下側のどこからでも中庭に出られるらしい。

 足元は着物に合わせて、慣れない草履だった。
 そろりと石の階段に足を乗せると、手を差し出してくれる。

 「危ないですので、手をどうぞ」

 よそ行きの顔で微笑む洸を訝しく思いながら、清流はお礼を言って手を取った。

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