それらすべてが愛になる
 微笑む中居に見送られて、中庭をしばらく歩く。

 少し前を歩く洸が振り返ると、馬子にも衣装だなと堪えきれないように笑った。

 「…それ、誉め言葉じゃない気がするんですけど」

 「濡れネズミから比べたら、見れるようになったってことだ」

 やや光沢のある濃紺のスリーピースのスーツを着た洸は、清流の歩幅に合わせてゆったりと歩く。その後ろ姿を見ながら、まるで雑誌からモデルがそのまま出てきたみたいだなと思う。

 その瞬間、思い出した。

 お手洗いから戻る途中で見た、この中庭を歩いていた二人。男性の方は、そういえばこんな色のスーツを着ていた気がする。

 「加賀城さん、さっきもここにいましたよね?」

 「やっと気づいた?」

 やっぱりそうだった。
 でも、そうだとしたらこの状況は一体どういうことなんだろう。

 さっきまでお見合い相手と一緒にいた人が今度は自分といるなんて、どう考えてもおかしい。

 「あの…もしかして、私があの場に居合わせてお邪魔してしまったとかですか?本当に申し訳なかったと思いますし、必要ならお相手の方にもちゃんと謝罪を、」

 「ちょっと待てって。あれはただ予定通りこなしてただけで、初めから受けるつもりはなかった。だから清流は関係ない」

 「そうなんですか…?じゃあ、」

 洸は突然足を止めたせいで、背中にぶつかりそうになる。
 会話と足元ばかりに気を取られていて、前を見ていなかったせいだ。

 「鈍くさいな」

 「慣れないんだから仕方ないじゃないですか、」


 「なあ、俺と結婚する気ない?」


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