それらすべてが愛になる
 それは、これからピザでも食べに行くか?くらいの軽さだった。

 あまりに気軽すぎて、背中にぶつからないまま普通に会話していたら「そうですね」と言ってしまっていたかもしれない。

 「はい?け、結婚?誰と、誰が?」

 「俺と清流が」

 「じょ、冗談ですよね?今の流れでどうしてそんな話に、」

 「冗談で言うかこんなこと」

 どこから説明するかな、と少し気だるそうに息を吐く。

 「ここ一、ニ年、今日みたいに縁談だなんだと取引先から話を持ちかけられることが増えたんだ。理由もなく断り続けると仕事もやりにくいし、だからといって今日みたいな形だけの見合い話に、時間も手間も取られるのも鬱陶しい。要はいろいろ面倒なんだよ」

 「だからってそんな…無理に決まってるじゃないですか、」

 「いきなりすぐに結婚しろってわけじゃない。ひとまず婚約者ってところ。婚約者がいると分かればそれだけで断る口実になる。
 ついでに、家庭を持って一人前っていう昭和の価値観で止まってる役員連中も黙らせられるしな」

 清流はようやく話の全体がつかめてきた。
 つまり、出世と縁談除けのための結婚、もとい婚約話ということだ。

 「どうしてその相手が私なんですか?誰でもいいならさっき一緒にいた女性でいいんじゃないんですか」

 借りてきた猫みたいな自分とは正反対の、清楚で大人の雰囲気を纏った女性だった。
 何の事情も知らない清流でも一目でお似合いだと思ったくらいなのだ。よっぽど洸の婚約者としてふさわしいに違いないはずなのに。

 「清楚?あれは相当強かで、腹の中で何を考えてるか分かんない女だぞ。結婚したら旦那の地位と金を最大限利用するタイプだ」

 吐き捨てるような言い方に清流はムッとする。

 「自分は利用されたくないのに、他人のことは利用するんですか?」

 「相手を利用しようとしてたのは自分だって同じだろ?」


 (この人…どこまで知ってるの?)


 清流の疑心すら見越したのか、洸は口元だけで笑う。
 余裕に満ちた眼差しに何もかも見透かされているようで、背筋に冷たいものが走った。

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