それらすべてが愛になる
 沈黙が続く中で、木に留まった鳥がさえずる声だけがやけにはっきりと聞こえる。

 「どうして、私なんですか?」

 清流と洸は、旅行先で一度会っただけだ。
 それだけじゃなく洸には迷惑をかけたし、借りたものも返せていない。

 たとえさっきの女性が嫌だとしても他にいくらでも候補はいるはずなのに、なぜ自分なのか。

 「それは、言わない。たぶん言ったら怒るだろうから」

 返ってきた答えは、清流の予想の斜め上をいっていた。

 「怒るって…私が?どういう意味ですか?」

 「気が向いたらいずれ話す。とにかく、清流だからこの話をしようと思ったってことだけ覚えてればいい」

 清流にとっては煙に巻かれたようで釈然としなかったが、それ以上話してくれそうにない。

 「で、どうする?」

 「どうするって言われても、」

 突然降ってきた現実感のない提案を前に、ただ途方に暮れる。

 「叔母さんの言いつけ通りに、あの木偶の坊みたいな男と結婚したかった?」

 「それは…決められていたからで、」

 「じゃあ何、俺はアレ以下だってことか?それはそれで地味にムカつくな」

 「自分で言って不機嫌にならないでくださいよ…」

 心底不服そうな表情を浮かべている洸に、清流も困ったように眉を下げる。

 そういえば、あの大河内という男性はどうなったのだろう。

 佐和子がうまく取り計らってくれているのだろうけれど、いくら洸の肩書きの力があったとはいえ、この短時間であの意思の強い佐和子を説得して翻意させるなんて、よっぽどのことだと思う。

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