それらすべてが愛になる
 滑らかな運転の中、窓の外を流れていく景色を見ていると次第に眠気に襲われてきた。

 イタリアでも思ったけれど、彼の運転はとにかく揺れないし、加速や減速もとてもスムーズだ。もちろん高級車の性能もあるのだろうけれど、運転もとてもうまいのだと思う。

 「お疲れではありませんか?これから高速に乗りますし、到着までしばらく時間がありますので、お休みになってください」

 「だ、大丈夫です…」

 そんなに眠そうな顔をしていたのだろうか。
 気を遣われてしまって、どことなく気恥ずかしくなる。

 「大変でしたでしょう、引っ越しや会社関連などいろいろと」

 「はい、まあ正直大変でした…」

 意外にもフランクに話しかけてくれる槙野に対し、清流もつい本音が出る。
 今住んでいる部屋での荷造りに、洸の住むマンションで暮らすための手続きに必要な書類一式の準備。そして加賀城グループへの採用面接と、面接をパスした後の試用期間に向けての手続き。

 とにかく怒涛の日々だったといっても、言い過ぎではないように思う。

 「けれど驚きました。とうとう婚約者ができたと聞いてそれだけでも驚きでしたが、そのお相手がイタリアでお会いした工藤さんだったとは」

 婚約者ではない、と否定しようとした言葉を清流はどうにか飲み込む。

 「あの……このことは、くれぐれも内密にお願いできますか?」

 「ええ加賀城から事情は伺っています。その点はご心配には及びませんのでご安心ください」

 車は高速に乗ると、さらにスピードを上げていく。

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