それらすべてが愛になる
 「槙野さんは、加賀城さんとお付き合いは長いんですか?」

 「私ですか?ええ、私の父が社長の…加賀城の父の秘書をしていましたので、幼少期の頃から。いわゆる幼なじみですね」

 「そうなんですね。槙野さんも加賀城グループの社員なのですか?」

 「はい。工藤様が配属になる経営企画部の、私は秘書課に在籍しています。経営企画部部長である加賀城の秘書兼運転手といったところでしょうか。つまり同じ部署の同僚になりますのでどうぞ私には気を遣わずに。これからよろしくお願いします」

 少しおどけた槙野の言い方に、清流も笑う。

 「私の方こそ、これからよろしくお願いします」


 土曜日の夕方ではあったが、都心へ向かう道路は大きな渋滞もなくスムーズにマンションに到着した。

 前回手続きをしたときにも来たけれど、とにかくハイセンスすぎて溜息しか出てこない。

 マンション前の守衛に話をしに行っていた槙野が戻ってくると、隣りに立って清流と同じようにマンションを見上げている。

 「敷地、広いですよね。元々は外交官などの外国人向けの高級邸宅が立ち並んでいた場所だそうです」

 ここは七階建てで、超高層マンションの部類ではない。
 高級マンションというとついタワーマンションを思い浮かべてしまうけれど、槙野の話を聞いて、高級邸宅があったという当時の趣を残しているのかもしれないなと思う。

 「フロントカウンターのコンシェルジュには事前に話を通してありますので、そこで名前をお伝えください」

 「はい、分かりました」

 お礼を言って歩き始めたとき、工藤さん、と呼び止められる。

 「何というか、あの人は一度言い出したら聞かないところがありますし、大変なこともあるかもしれませんが、でも悪い人ではありません。なので、加賀城のこと、よろしくお願いいたします」

 深々とお辞儀をされて、清流はどう返せばいいか困ってしまう。


 「六ヶ月間は…頑張ってみます」


 清流は曖昧に微笑んで、エントランスへと歩き出した。


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