それらすべてが愛になる
 高級マンションというとあまり緑がないイメージだったのだが、ここは都会にいることを忘れるくらいにふんだんに緑に囲まれている。

 アプローチを抜けると、途端にガラスウォールに囲まれた大きな空間が広がる。
 エントランスホールへと続くこの空間をアトリウムということを、この前洸と訪れたときに初めて知った。

 (確かここを曲がった先にホールがあって、カウンターがあったはず)

 高い天井やガラス越しの植栽などをきょろきょろと眺めながら進むと、ようやくエントランスホールの奥にカウンターが見えた。

 「工藤様、お待ちしておりました」

 前回初めて来たときにも応対してくれたコンシェルジュの女性が、清流を出迎えてくれた。たったそれだけのことでも緊張していた気持ちが少しほぐれる。

 「工藤清流です。あの、今日からお世話になります…」

 「はい、それでは私よりご説明させていただきますね」

 清流は、居住者が無料で利用できる共有施設やヴァレーサービス、館内のセキュリティーなどマンションの大まかな説明を受けた。

 「コンシェルジュではあらゆるサービスが用意しており、二十四時間体制でサポートいたします。何かお困りの際は、まずこちらへご相談くださいませ。そして最後に鍵についてなのですが…」

 そう言って鍵を差し出される。

 「こちらは非接触キーで上部が受信機となっていますので、鍵を鞄やポケットなどに入れたままでも問題ございません。もちろん、下部のキー部分を鍵穴に差し込んでも解錠されます。
 万が一紛失等された場合はすぐにお申し出ください。以上ですが、何かご不明点やご質問はございますか?」

 「あ、いえ、たぶん大丈夫だと思います。ありがとうございます」

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