それらすべてが愛になる
 「あの、そこまでしていただくのはっ、というか、今から泊まるところ探さないといけないですし、」

 「あのな、まずその服をどうにかしないと風邪引くぞ。旅行先で体調崩したら一人で病院にかかれるのか?」

 確かに頭から足の先まで濡れてひどい格好だ。気温も下がってきたのか少し寒い。
 でもどうしよう、と頭の中でぐるぐると考えている間に、しびれを切らした男性が運転席に向かって何やらアクションをすると、眼鏡をかけたもう一人の男性が降りてきた。

 運転手と思しきその人は、失礼いたしますと清流のスーツケースを掴んでトランクに運び入れると、また運転席へと戻っていく。あまりの無駄のない動きに、清流は口を挟む隙もなかった。

 「ここ駐車禁止エリアなんだ、目付けられる前に早く乗れ」

 「………は、はい」

 有無を言わさない態度に、清流は頭を下げて後部座席に乗り込んだ。

 「槙野、出していい」

 「かしこまりました」


 車が走り出して、窓ガラスを雨粒が次々に流れていく。
 その様子を見るともなく見ていると、不意にぶるりと寒気が走った。

 くしゅん。

 「あっ、すみません……」

 慌てて口元を抑えると、頭の上からスーツの上着をバサリと被せられた。

 「着とけ」

 「……ありがとうございます」

 「これ以上車が濡れても困るから」


 お礼を言う清流を一瞥すると、ドアの窓枠に片肘をついたまま窓の外へと目を向けた。

 綺麗な顔から発せられる言葉は粗野そのものなのに、所作のすべてが絵になって、そのアンバランスさが清流の心に強く残った。

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