トライアングル・ロマンス
「……俺やって、ドッジボールん時はいっぱいボール当ててるし、避けるのやって得意や。あ、あと給食残したことないで! 徹は人参とかピーマンこっそり残してるやろ」
「あ、馨! それは内緒って言ったやん!」
再び始まる小さな口喧嘩。こんなに頻繁に繰り広げられるなら確かに……数日も経てば見慣れた光景にはなりそうだ。
「馨はなんでもうまいうまいって食べるやん」
「だって全部うまいんやから仕方ないやろ。食べるの好きやし」
二人の話を楽しそうに聞いていたお母さんは「あら! それじゃあ澪の手料理期待しててね! この子が作るご飯とっても美味しいのよ~」なんて、まるで自分のことのように自慢げに話し始める。
「ちょ、ちょっとお母さんやめてよ! 別に、そんな大したもの作れるわけじゃないし」
お母さんが仕事で家を空けていることも多かったから、せめて自分で出来ることはやろうと思って家事を覚えただけだ。料理だって簡単なものしか作れない。
だけど、お母さんはいつも「ありがとう」って嬉しそうに食べてくれるから、その笑顔が見たくて……レシピ本を図書室で借りたりして練習はしていた。
だからその過程で料理を作るのが好きになったってだけで、本当に、ありきたりなものしか作れないのだ。