トライアングル・ロマンス
「う~ん、澪の気持ちは嬉しいけど……やっぱり私が作るわよ」
悩まし気な顔をしていたお母さんが、にっこり笑って言う。
――このままいけば、毎日お母さんの手料理を食べることになるだろう。お母さんの料理は嫌いじゃないけど、でもやっぱり、私が作った方がいい気が……。
やっぱり自分が作るよと声を上げようとすれば、それよりも早く、目の前に座る男の子が口を開いた。
「俺、姉ちゃんの料理めっちゃ気に入ったわ。毎日食いたい」
馨くんがきっぱりと口にしたその言葉や真っ直ぐな瞳に、何故だか少しだけ、どきっとしてしまった。
そしてよく見れば、馨くんの口の端にカレーが付いている。自分の口元を人差し指で触って教えてあげれば、馨くんも一拍置いて自分の口元に人差し指を当てた。
指先に付いたカレーをぱくりと口に含んでから「……うん。やっぱ姉ちゃんの料理、俺好きやわ」と飾り気のないストレートな言葉をくれる。
お母さんの料理を回避する為という理由もあるのかもしれないけど……でも、褒められたことは素直に嬉しい。
「せやな。俺も姉ちゃんの料理まあまあ気に入ったし、食べてやってもいいで」
「こら、徹」
お父さんに窘められた徹くんは「……はいはい、わかってるわ。姉ちゃんの料理、美味かったで」と視線を逸らしながらも嬉しい言葉をくれた。
照れているのだろうか、その耳はほんのりと赤く色づいていて。――うん。弟って、思っていた以上に可愛いかもしれない。