トライアングル・ロマンス
「……さっきはいらないなんて言って、ごめんね」
互いに無言で歩き続けること数分。ようやく涙も落ち着いた。
目的地の朱色の屋根が見えてきたタイミングで、小さな背中に向かって謝る。
「……ええで。しゃあないから、許したる」
唇を少しだけ尖らせながら、でもすぐに笑って許しの言葉をくれるこの子は――徹くんと馨くん、どちらなのだろうか。
「あと、ごめんね。君は徹くんかな、馨くんかな。まだ見分けられなくて」
「……俺は馨、や。はよ覚えてや」
「馨くん、だね。うん、頑張るね」
「おう」
コクリと頷いた馨くんは、私に背を向けてまた足を踏み出す。
「ほな、腹減ったからはよ帰ろ」
「……ふふっ。うん、そうだね」
先ほどよりもゆったりとした足取りで歩く馨くんは、依然私の左手を握りしめたままだ。
それが、何だか嬉しくて。胸がほんわりと温かくなる。
――心臓がトクトクといつもより速く動いて、触れた手のひらからじんわり熱が広がっていくように、体が熱くなって。
もしかしたらこれが、私の初恋だったのかもしれない。
こんなこと、恥ずかしくて誰にも言えやしないけど……この時の馨くんの笑顔と繋いだ手のぬくもりは、ずっと忘れられない。大切な思い出になったのだ。