トライアングル・ロマンス


ベッドから降りて遮光カーテンを開けば、眩い太陽の光が降り注いでくる。

こんなにいい天気の日には、子どもの頃の徹だったら身支度もおざなりにして一目散に遊びに出かけていただろう。そんな徹に、私と馨はいつも付き合わされていたっけ。


――――時の流れとは早いもので、あれから十年もの月日が経った。

地元の高校を卒業して東京にある大学への進学を決めた私は、一人暮らしをすることになったのだ。


両親は私が決めたことならと賛成してくれたけど、なぜか弟たちにはひどく怒られたんだっけ。いや、拗ねられたという表現の方が合っているかもしれない。

徹と馨の二人は、共に過ごす中で想像以上に私に懐いてくれていたようで、上京には最後まで断固反対の姿勢だったのだ。

毎日電話しろ、どんなに些細なことでもいいから連絡はこまめにしろ、夜遅い時間まで出歩くな、エトセトラ……。

両親以上に過保護な弟たちからの条件を渋々呑んで、現在は晴れて一人暮らしをしているというわけだ。


まあ正直な話、言われたことを全てを守っているのかと聞かれたら――それは嘘になってしまうのだけど。

二十歳を過ぎて門限が二十時なのは、流石に無理があると思うんだよね。こまめな連絡に関しては、弟たちの方からほぼ毎日メッセージか電話がかかってくるので難なくクリアだ。


初めは面倒に感じてしまうこともあったけど、四年も続けばそんな生活スタイルにも慣れてしまった。それに、慕われているというのは純粋に嬉しいしね。いくつになっても、弟という存在は可愛いものだ。

――うん。自分も大概姉馬鹿なのかもしれないな。


携帯画面に表示された“姉ちゃんおはよう”の二件のメッセージに、自然と口許が緩んでしまう。

“おはよう”と吹き出しが付いた猫のスタンプを送信して、まずは顔を洗おうと、足取り軽く洗面所に向かったのだった。

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