トライアングル・ロマンス


「うちらもさ、大学を卒業してあと一か月で社会人になるわけでしょ。……大樹とね、約束してたのよ。卒業を機に、一緒に住もうって」


つい数日前にも桃ちゃんから聞いた話だ。

引っ越し準備が大変だ、大樹が全然手伝ってくれなくて、なんて愚痴をこぼしながらも、弾んだ声色を隠せていないその言葉の節々からは彼氏さんへの愛情が感じられた。彼氏さんのことが本当に大好きなんだろうなって。


……だけど。今、目の前で俯いて話す桃ちゃんの声は、暗く重たい響きをはらんでいて。

――泣いて、いるのだろうか。


こんな時、友人として何て声を掛けたらいいんだろう。恋愛経験が皆無に等しい私なんかじゃ上手いアドバイスも思い浮かばないし、知ったような口で励ましの言葉を掛けるのも違う気がして。

頭の中に言葉を並べ立てながら逡巡していれば、ガバッと効果音が付きそうなくらいの勢いで顔を上げた桃ちゃん。

自然に下げていた視線を持ち上げれば、私の予想に反して、桃ちゃんの顔に涙は見られなかった。泣いているどころか、むしろ、その顔には笑みが浮かんでいて。

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