トライアングル・ロマンス
「いや、やっぱりいいです。聞かなくて大丈夫」
片手を胸の前に出してきっぱり否定の言葉を口にする。
何も聞かないのでこのまま直ちに実家に帰って頂こう。うん、そうしよう。
「いやいや~、そんな遠慮しなくてもいいんやで」
だけど私の言葉なんて意にも介していない様子で立ち上がった徹は、にやにやとした笑みを隠そうともせずに部屋の隅を指さした。辿るように視線をずらせば、そこには積み重ねられた段ボール箱の山があって。
「俺ら、今日からここに住むから」
徹の言葉にコクリと頷く馨の姿が、視界の隅に映る。
「……はい!? えっ、なにそれ聞いてないんだけど!」
「そりゃ言ってないからなぁ」
ここに住むって、また突拍子もないことを……‼
両親と喧嘩でもして家を出てきたのだろうか? でもそれにしたって、この段ボール箱の山だ。家出で持ってくる荷物の量ではないだろうし……。
「そもそも、大学はどうするの? こっちから通うのも難しいし……お父さんとお母さんだって反対するに決まってるでしょ?」
とりあえず詳しい話を聞いてみようと思いソファに座れば、立ち上がっていた徹も対面する形でソファに腰を下ろした。
私が帰宅した時から一切動かず変わらぬ体制で座っていた馨は、眠たそうに目を擦りながらソファの上で丸まっている。相変わらずのマイペースさだ。