トライアングル・ロマンス
「……どうせ私の絵はへたくそですよ」
思わずムッとしてしまうけど、自分に絵のセンスがないことは自覚済みだ。子どもの頃から徹には「姉ちゃん絵~下手やなぁ」なんてストレートに言われていたし。
それなのに徹も馨も、オムライスを作る時には必ず私にケチャップで何か描いてと言ってくるんだ。
「これからはケチャップくらい自分でかければ?」
私のへたくそな絵なんか見たって仕方ないでしょうし。
テーブルにお皿を並べながら、ちょっとだけ皮肉も込めて言ってやる。
私の言葉に、馨は少しだけ考える素振りを見せる。
「でも俺は……姉ちゃんにこうやって絵描いてもらえんのが嬉しいんやけどな。トクベツって感じがして」
「ん、んまい」と口いっぱいにオムライスを頬張るこの弟は、こうやってサラッと嬉しいことを言ってくれる。
本人は無自覚だろうけど。
「……しょうがないから、これからも描いてあげよう」
小さく呟いた言葉だけど馨の耳には届いたみたいだ。
「おん、ありがとな」と嬉しそうに目を細めている。
――いつか、上手くなったなって言わせてやるんだから。
そう心に決めて、私も馨の前に腰を下ろした。