優しくしないで、好きって言って
新条七瀬──それが私の名前だ。
しかし大概の大人は私を〝お嬢様〟と呼ぶ。
私を起こしにきたこの黒スーツの男──久栖竜胆もその内の一人。
パパが偉い人だから、それも当然のことなのかもしれないけれど。
昔からそう呼ばれるのはあんまり好きじゃないの。
「あ、一つ七瀬さんに朗報」
ん?
「旦那様と奥様、明日の夕方には出張から戻られるそうです」
「……ほんと!?」
私は告げられたその言葉に、文字通りベッドから飛び起きた。
私のパパは、主にファッション、化粧品ブランドを手がける世界に名だたる大企業〝新条グループ〟の社長だ。
そしてママはパパの会社のブランド経営に携わりながら、デザイナーとして働いている。
二人とも仕事の都合で帰りが遅くなることも多く、こうやってたまに揃って家を空けることもある。
だけど私は、一度も文句を言ったことはない。
お仕事を頑張ってる二人が大好きだし。なにより、パパもママも私をたくさん愛してくれてるってわかってるから。