優しくしないで、好きって言って

 新条(しんじょう)七瀬(ななせ)──それが私の名前だ。


 しかし大概の大人は私を〝お嬢様〟と呼ぶ。

 私を起こしにきたこの黒スーツの男──久栖(くすみ)竜胆(りんどう)もその内の一人。

 パパが偉い人だから、それも当然のことなのかもしれないけれど。


 昔からそう呼ばれるのはあんまり好きじゃないの。


「あ、一つ七瀬さんに朗報」


 ん?


「旦那様と奥様、明日の夕方には出張から戻られるそうです」

「……ほんと!?」


 私は告げられたその言葉に、文字通りベッドから飛び起きた。



 私のパパは、主にファッション、化粧品ブランドを手がける世界に名だたる大企業〝新条(しんじょう)グループ〟の社長だ。

 そしてママはパパの会社のブランド経営に携わりながら、デザイナーとして働いている。


 二人とも仕事の都合で帰りが遅くなることも多く、こうやってたまに揃って家を空けることもある。

 だけど私は、一度も文句を言ったことはない。

 お仕事を頑張ってる二人が大好きだし。なにより、パパもママも私をたくさん愛してくれてるってわかってるから。

< 6 / 56 >

この作品をシェア

pagetop