九條くんの15分
私の存在が九条くんに知られる日なんて来ない。
ただひっそり、こっそり、先輩の後ろを歩く。
そんな毎日を九条くんが卒業するまで───。
なんて、
それすら勝手すぎる私のわがままなんだけど。
「でも、本当にいいの?」
「え?」
「今はまだいないみたいだけど、あれだけのルックスだし、先輩そのうち彼女できるかもよ」
教室の隅っこで、私にだけ聞こえるようにコソコソッと耳打ちする八愛ちゃん。
九条くんに彼女……かぁ。
「絶対に、すっごく綺麗な人だろうねぇ」
「……はぁ。あんたって子は」
「でもさ、好きな人が、自分を好きで、当たり前みたいにそばに居てくれるってすっごい幸せなことだよね」
「そりゃそうでしょ」
ふと考える。
いつもどこか寂しそうな九条くんの隣に、九条くんを笑顔にしてくれる人が寄り添ってくれるなら───。
「早く、九条くんに彼女できるといいな」
「はぁ?……どうしてそうなるわけ?」
八愛ちゃんの眉間に深く深くシワがよる。
だって私は、九条くんが好きだから。