未定
「今年からこの学校に転校してきた三島咲良さんです。じゃあ、みんなに一言」
「…兵庫県から引っ越してきました。三島咲良です。よろしく、お願いします」
私はありきたりな言葉を並べ、頭を下げた。
横にいる担任の先生が何か話しているけど、全く頭に入ってこない。
今すぐにこの注目した大量の視線から逃れたい。
島にいた頃はまずこの量の人がいる空間に放り込まれることがなかったので、体が緊張で張りつめているのが分かる。
「じゃあ三島さんはあの窓側の席ね」
「はい」
やっと話が終わったのかという気持ちで私は指定された席まで歩く。
その間も好奇な目で見られるのが不快で仕方がない。
あぁ、今すぐに戻りたい。
私の大好きな人達がいる島に。
私の両親は昔から仲が悪い。
そして高校生の今、両親が離婚した。
正直散々子供を巻き込んでおいて今なのかという感じだ。
けれどなぜか私は何があっても二人は絶対に離婚しないと思い込んでいた。
今思えば私達は家族という名前に縛られて一緒に暮らしていただけなのに。
二人が喧嘩しようと、お父さんが不倫をしようと、言ってしまえば私には関係のない事だった。
いや、そう思うことでしか自分の心を守れなかったのかもしれない。
けれどそれで毎日が過ごせていたからよかった。
それなのに今日からは当たり前の毎日すら、無くなってしまう。
この事が決まってしまってから、目の前の現実がどうか夢であってほしいと何度も願った。
「咲良、もうすぐ出るよ」
「分かってるよ」
ドアの向こうから急かすようなお母さんの声が聞こえて、ぶっきらぼうに返事をした。
あぁ、本当に行かなくちゃいけないんだな。
手元にある大きく膨れたかばんを見て思う。
既に昨日引っ越し業者の人達が持っていってしまったから、今手元にあるものはほんの少しの私だけ。
もうきっとほとんどは東京へと向かっている。
「早く、電車の時間迫ってるんだから」
「私衣織達と会ってから一人で行く。お母さん先に行ってて」
呆れたようにお母さんが顔をしかめた。
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