未定
「二人とは昨日も会ったんでしょ?」
「そうだけど」
「じゃあもういいじゃない。ちゃんとお別れしてきたんでしょう。それ以上何があるの。時間の無駄だから辞めなさい」
無駄。昔からよくお母さんに言われてきた言葉だ。
良くも悪くも効率主義なお母さんはあっさりしすぎているというか、時々人の感情が読めていなさすぎる時がある。
自分のしている行動が意味のあるないだけで判断されることがその人にとってどれだけ不快なものか知らないのだろう。
一方、効率主義なくせにお父さんのような男に執着するところもありお母さんのことは昔からよく分からないし、性格も合わない。
「そもそも全部お母さん達だけで決めたことじゃん。私は望んでない。最後なんだしこれくらいいいでしょ?」
「…勝手にしなさい。十七時のには乗るからね」
私が少し感情を露わにして見つめると、それに折れたお母さんが目を逸らした。
お母さんは昔から私のことを気に掛ける素振りばかりして、本当の私を見てくれない。
感情がぶつかりそうになった時は真っ先にお母さんの方が折れて言い合いを避ける。
最初はそれも愛情だと思っていたけれど、最近になって私を直視する方が都合が悪いのかもしれないと思い始めた。
そんな思いを抱えたまま、何も言わない私も私だ。
私も今更お母さんに自分を見てほしいだなんて思っていない。
だって私には、私を見てくれる人が他にいたから。
私のことを大切に思ってくれて、きっと好きだと思ってくれていて、一緒にいてくれて。
二人がいたから、私はこの島で今日まで生きてくることができた。
私に背を向けるお母さんを見ないふりをして、私は家を飛び出す。
三月最後の太陽は雲一つない空に浮かんでいて、眩しかった。
そんな太陽に照らされて私は二人のことを想う。
二人に会った時に泣いてしまったら、またいつものように泣き虫だとからかわれてしまう。
だから泣かない。最後の日まで泣きたくない。
家から走ってきたせいで、息が弾む。
でももう少しでいつもの海岸が見える。
「衣織ー!航ー!」
まだ遠い二人の背中に向かって私は叫んだ。
二人はどこにいても私の声を拾ってくれると知っているから。
「さーくーらー!遅い!」
「早くここまでこい!」
二人は大きめのジェスチャーで私を呼ぶ。
この広い海岸は、私達三人が小さい頃から集まった思い出深い場所だ。
私達の住む島は瀬戸内海に浮かぶ一つ。
十七年間この島で暮らしてきた私達は学校帰りや休みの日に何かとこの海際まできて遊んでいた。