劣情にmistake
「……うん、そう。別に大丈夫だから、夏川くんが誰かを殺さなきゃいけないなら、わたしでいいよ」

「あのさ、昨日も言ったけど」


夏川くんの声のトーンが少しだけ下がった気がした。わたしのセーラー服が風になびく。

自分が殺されてもいいだなんて、当たり前のように口に出来る自分のこと、相当気持ちが悪いなともおもう。


「それを決めるのは俺であってお前じゃない」


なにそれ、どうしてわざわざわたしを生かすの。たまたまなら、他の人だってよかったでしょ。


「……夏川くんは、いつもこうやって運命をねじ曲げるようなことするの?」

「しないよ。たまたまだって昨日言ったろ」

「じゃあその対象が、わたしじゃなくてもいいでしょ」

「りりこ、お前は本当に欲がない人間だな」


「それは、」

「じゃあ俺に、泣いて喚いて(すが)ってみれば」

「何言って、」

「殺してくれって頼んでみろよ、そしたら考えてやってもいい」


そうでもしなきゃ、お前のことは殺さない。とでも言うように。
無表情の夏川くんが少しだけ笑ったような気がして、わたしはそれ以上何も言えなくなってしまった。
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