劣情にmistake

……誰!? この人誰っ!?

何拍か遅れてようやく驚きがやってきて、とりあえず一歩退いた。


もしかしたら知り合いだったかもと思って記憶をかなり昔まで巻き戻してみたけど、こんな綺麗な人、やっぱり会ったことない。

そもそも、開口一番に『殺してほしい人間いる?』って。
いろいろやばいよね……っ?


変質者だ。

そう呼ぶには容姿が整いすぎていていささか申し訳ない気もするけど、変質者は変質者。


そして、私が退いた分だけ相手も距離を詰めてくるのでよっぽど怖い。逃げようがない。

視線を斜めにズラして、拳をぎゅっと握りしめる。


「……なんのご用でしょうか……」


意を決して、そう尋ねた──直後のことだった。

静まり返った夜道に、突如、轟音が走った。

ドンッという効果音にさらに濁点をつけたような、金属が潰れるような、とにかく鈍くて激しい音。

いったい何が起こったのか。

反射的に顔を上げるも、前に立ちふさがる彼が視界をしつこく遮ってくる。
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