劣情にmistake
「りりちゃんも可愛い顔してるけどね」


そう言って昨日と同じようにわたしの髪を撫でる夏川くん。

指先があまりにきれいでぞくりとする。可愛いなんて、男の子に言われたことないんだもん。


「……ねえ夏川くん、なんでわたしを生かしたの?」

「だから、たまたまだって言ったろ」

「その割には、夏川くんってわたしに構ってくれるよね」

「おれが死神担当なんだからそれはそうだろ」

「優しいなって思ったのに。わたしだけに優しいのかなって」

「自惚れも甚だしいな、おまえ」


暗闇の中の夏川くんの表情は変わらない。
ゆっくりとわたしの髪を撫でる手はそのまま。
 
でも、出会ったときより確実に怖くなくなっている。夏川くんのことも、死ぬっていうことも。


「……わたし、明日死ぬのかな」

「今更怖くなった?」

「そりゃ、怖いよ。でも、誰かを殺すのも自分が死ぬのも、同じくらい怖いから、だったら一瞬で消えちゃう方がいいなって」

「おまえは本当、意思固いね」

「頑固なの」


真っすぐ夏川くんを見ると、わたしの髪を撫でていた手が急に止まった。


「……りりちゃん、おいで、ぎゅってしてあげる」
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