劣情にmistake
そして、そのまま引き寄せられる。

何急に、どうしてそんな甘い声でわたしを呼ぶの。



「ねえ、夏川くん、死んだ時の記憶ってある?」

「ないって言ったろ、夏の川で死んだらしいってことくらい、それも本当かどうかわかんないし」


「じゃあ、怖いかどうか、痛いかどうか、わかんないか」

「……生前の環境とか、死に方にもよるけど、俺はやっと終わったって思ったかもな」


「やっと終わった?」

「りりちゃんと一緒だよ、つまんない人生で、誰かと感情を共有することもなく、淡々とした日々だったってだけ」

「……でも、わたしは夏川くんと話してるの、楽しかったけど」


「りりちゃん、おまえはやっぱり悪い子だな、男にベットの上で抱かれながらそういうこと言うのは」

「へ、変な意味じゃないもん」


昨日は私がすり寄ったけど、今日は夏川くんが私のことを抱きしめている。

変な感じ。でも全然嫌じゃない。

死神なのに、へんだよね。

この人は明日、わたしが死ぬのを見届ける為に存在しているだけなのに。



「りりちゃんの最初で最後、俺がもらってあげてもいいけど」

「……欲まみれだよー夏川くん」

「人間と違うところは心臓がないことだけって言ったろ?」

「なんだ、夏川くん、わたしのこと思いの外だいすきなんだ」


「一目惚れって言ったら満足?」

「きゅ、急に素直になるね?」


「なありりこ、お前の意思は固いけど、決めるのはお前じゃない。もし明日、俺がおまえを殺さないって言ったらどうする?」

「勝手にわたし以外の誰かを殺したら、夏川くんのこと一生軽蔑する」

「はは、それは勘弁」
< 45 / 57 >

この作品をシェア

pagetop