劣情にmistake




『……りりちゃん、俺は太陽が苦手だから、明日の18時半、屋上に迎えに行く。おまえの最期は俺がしっかり管理してやるから逃げるなよ』


その言葉の通り、18時半、わたしは学校の屋上にいた。

あと少しであのトラック衝突事故と同じ時刻になる。

日付はずれたけれど、時間帯だけでも合わせるのかな。そのへんのルールはよくわかんない。


夏川くんは死を管理するなんて言うけれど、わたしの死因って何になるんだろう。

屋上ってことは、飛び降り自殺かな?

痛いのは嫌だけど仕方ないよね。日本ではまだ安楽死が制度化されていないんだし。


自分の死因について考えるなんてどうかしてるのかも。

でもやり残したことももうないもん。夏川くんにキスされたのは少し不本意だけど、全然嫌じゃなかったし。



「りりこ」

声の方へ振り替える。夕日に当たらないように、やっぱり日陰に佇む夏川くんの姿があった。


「夏川くん、約束通り来たよ」

「最後の最後には逃げ出すこと期待してたけど」

「わたしのこと見くびりすぎだよー。決めたことはやり通すの!」

「ま、そーいうとことも嫌いじゃないけどね」


セーラー服がなびく。瞬間、急に空気が冷たくなったような気がした。

いちばんはじめ、夏川くんと出会ったときと同じ空気。

そっか、あの時感じた恐怖は、夏川くんが死神としての空気感を纏っていたからなんだ。

この冷たさにぞっとして、思わず身震いする。
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