劣情にmistake
「ザンネンだけど、おまえ以外の誰かを殺したわけでもないよ」

「ど、どういうこと……?」


「ま、別にそれでもよかったけど、りりちゃんが“他の誰かを殺したら一生軽蔑する”なんて言うからできなかったし」

「じゃ、じゃあやっぱりわたしは死ななきゃいけないんじゃ、」


震えながら問いかけると、わたしの顔を掴んだ夏川くんの右手が、親指だけで頬を撫でた。

その行為がやけにぞくぞくとわたしの熱をあげていく。こんな状況で。


「ごめんね、言うの忘れてたけど、死神とキスしたら寿命が半分になるんだ。俺も、お前もね」

「えっ?」


「俺の命半分と、りりちゃんの命半分、併せて1人分の命をあの世に送った。だからりりちゃんは平均年齢の半分まで、頑張って生きてくれる?」

「な、なにそれ……でも、夏川くんの寿命って、」


「死神にも一応あるんだよ。人間よりずっと長い寿命みたいなモノが。それを迎えると役目が終わってやっとはじめてちゃんとした死人になれる」

「全部初耳だよ、どうしてそんなに大切なこと黙ってるの……」

「本当は、半分でもりりちゃんの寿命が短くなるなんて耐えられないから黙ってた。でもまあこんな状況じゃ仕方ないよね」


あっけらかんとそんなことを言ってのける。
 
わたしの寿命なんてどうでもいいよ。
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