劣情にmistake
「……もう夏川くんとはキスできない?」

「りりちゃん、大胆なこと聞くね?」

「う、ごめんなさい……」


「一回も二回も同じ。だから別に何回だってしてやるよ」

「え、じゃあ、今後も夏川くんに会えるってこと?」


ふ、と笑って。
夏川くんの影が落ちてきた。

まるでそれ以上聞くなとでもいうように、昨日と同じぬるさで唇が重なる。逃れられないよ。

角度を変えて重なるそれと、容赦なく口内をなぞるざらりとした感触に必死に応えながら、わたしはまた涙がでてくる。


だってこんなの、もう会えないって言われてるのと同然だ。

わたしが死んできみに会えないのと、生きていて意思があるのに会えないのとじゃ、全然違うんだよ、夏川くん。


「なつ、かわくん、」


やがて離れた唇の隙間に滑り込んで声を発すると、やっと彼の視線とわたしのそれが重なった。


「どうしたら、また会えるの?」

「……俺は割と禁忌をおかしちゃったからね」

「禁忌……」


「それに、気づいてなかったけど、俺の死神としての役目も今回が最後だったみたいだし」

「え? それってどういう……」

「やっと普通の死人になれるって言ったろ。もう誰かの死なんて見届けなくていい」


そっか。夏川くんが少しでも楽になれるなら、それでもいい。

だけど。死神としての役目を終えたらどうなるの? もう意識も何もなくなってしまうの?
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