劣情にmistake
「……輪廻転生って知ってる?」

「聞いたことあるけど、わかんないよ」

「人が何度も生死を繰り返して生まれ変わること。つまり俺も、もしかしたら現世で、若しくは来世で、りりちゃんに会えるかもね」


そんな確証のないこと言わないでよ。勝手に消えるなんてずるいよ。


「りりちゃんおいで」

ぼろぼろ泣くわたしを見かねて夏川くんがぎゅっと抱きしめる。


「こんなことなら、死んだ方がよかったのに」

「折角生かしたのに、我儘なこと言うね」


「だって、夏川くんの記憶を持ったまま、ひとりで生きて行けっていうの?」

「はは、言ったろ、お前が泣いて喚いて縋っても、俺はお前を殺さないって」


「そんな……」

「それに、記憶はいずれ消える、早ければ明日にでもね」


そんなの嫌だよ─────


「夏川くん、わたし、夏川くんのこと、っ」

「りりちゃん、俺が生まれ変わったら、真っ先に会いに行く。その時またおまえのこと迎えに行くから」


わたしの言葉をわざと遮った夏川くんの掌が瞼に落ちる。瞬間、夜と同じように突然の睡魔が襲ってきた。

わたし、まだ言いたいことがたくさんあったのに────


 
「でもね、これだけは言っとく、俺は伊藤りりこちゃんが初恋だったよ」



まだ眠りたくない、夏川くんのバカ。



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