劣情にmistake
❁epilogue






「りりこちゃん、最近猫飼い始めたんだって?」

午前中の2コマが終わった大学帰り、午後からのパン屋のバイト。

仲良くしているパートのおばさんがレジ打ちの横でそう尋ねてきた。

焼けたパンのにおいが奥から漂ってきていい気分。天気もいいし。


「そうなんですー。最近マンション付近をやたらうろうろしてる子猫がいて!」

「へえ、可愛いわねえ。お父さん許してくれたの?」

「最初は嫌がってたんですけど、わたしがどうしても気に入っちゃって……それになんか、初めて見た時からやけに既視感?みたいなのを感じるんですよー」


見てください、ちょっと目つき悪いんですけど。
そう伝えながらエプロンのポケットに忍ばせていたスマホを出して写真を見せる。


まだ小さな黒猫。目つきが悪いのが特徴だけれど、すごく綺麗な顔をしていて毛並みが綺麗。


「ふふ、じゃあ運命なのかしらね?」

「運命ですか?」


「そうよう、きっとりりこちゃんに拾われる為に生まれてきたのよこの子」

「はは、だったらいいなあ。すっごく可愛いんですもん」


やけにわたしの周りをごろごろと鳴きながらすり寄ってくる子猫のこと。
一目見た時から家族になる予感がしていたのはなぜだろう。


「それで、名前はなんていうの?」

「あ、そうだ、名前はちょっと変わってるんですけど、」


そして、名付けた時もなぜかその名前がふっと舞い降りてきた。

自分でも変な感じだけど、これしかないなって思ったの。

お父さんにも友達にも、変な名前って笑われちゃったんだけどね。



「────ナツカワって名前なんです、人間の男の子みたいでしょ?」



【 劣情にmistake 完 】
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