劣情にmistake
気づけば手を取られていた。
冷たくもあったかくもない手のひらだった。
ぬるいというわけでもなく、なんだろう、表現しがたい……そう、温度がない、みたい。
ただ“触れている”という実感だけが静かにそこにあった。
とつぜん現れた男の子に奇妙なハナシをされた挙句、その人に手を引かれながら歩いている。
普通に考えておかしいありえない。
私、なに大人しく従ってるんだろう。
でも……。
──『お前はソレに巻き込まれて死ぬはずだった──伊藤りりこちゃん』
彼に話しかけられたときの位置から十字路までの距離は、彼が言うように40メートルほど。
足止めされなかった場合、タイミング的に巻き込まれていたとしても本当におかしくはない。
さっきの衝撃音が嫌なイメージとともに脳裏をよぎり、再び心臓が跳ねた。
私は、死ぬはずだった……?
指先から体温が徐々に失せていく。
いやいや、違う違う!
所詮結果論というか、後付けというか。
もしかしたら巻き込まれてたかもしれないよ、あぶなかったねーってハナシでしょ?
そもそも本当にトラックの事故だったのかもわかんないし。
でも、じゃあなんで、私の名前を知ってるの?
しかも、“遠回りになるけど、手前の路地を通って家に帰ろう”なんて、まるで私の家まで知ってるみたいな口ぶり。