劣情にmistake
冷静に考えて、一般的に導き出される答えは……“ストーカー”。
だけど困ったことに、この綺麗な人とストーカーという言葉がまったく結びつかない。
綺麗だからストーカーしなさそうとか、そんなガバガバな理由じゃなくて、彼を綺麗だと思う理由のひとつに、おそろしいほどの冷静さが含まれているから。
誰かを熱く追いかける姿なんて想像できない。
むしろ普段は、他者との関わりを極力避けていそうな印象を受ける。
……きちんとたしかめなくちゃ。
この人が何者なのか。
なんで私に話しかけたのか。
手を引かれるままに歩いていた私は、つま先にぐ、っとブレーキをかけた。
すると彼は、思いのほか素直に足を止めてくれた。
「あのっ……あなたは誰なんですか、どうして私に話しかけたんですか……あと、なんで私の名前を知ってるんですか?」
一拍分の間をおいて、振り向いた彼はくすっと笑う。
「言っても信じないと思うよ。それに今の状況は俺にとってもイレギュラーだから説明が難しい」
「?…… と、とりあえず話してくれませんか? 聞かないことには判断のしようがないし……」
「ん……それもそうだね。俗っぽい人間の言葉を借りるなら死神ってのが1番近いかな」
「……、……」
「く、はは、やっぱり信じないでしょ」
そりゃあ、にわかに信じられるわけもない。
のに、彼の声や瞳が極めて冷静なせいか、妙な説得力が生まれてしまっている。