劣情にmistake

今さら、信じないでしょと言われても、初手に『殺したい人間いる?』なんてぶつけてきた相手だから、新たな驚きもなくて。


それに、本当に妙なハナシ、しっくりくる。

影も声も形も感触もあるのに。
……彼がここに存在しているっていう実感が得られないんだもん。


存在感がないと表現するには少し違う気がする。

街を歩けば10人中10人が振り返るほど綺麗な容姿に加えて、周りを呑むほどの静けさを纏った圧倒的な雰囲気があって。

むしろ存在感しかないはずなのに、その美しさがバリアみたいに働いている。

こちらを魅了すると同時に手の届かないものだと理解させてくる。


そんなあらゆる違和感も──死神なら、あっさり腑に落ちる。


……って、やばやばである。

こんな簡単に信じそうなるなんて、私、将来アブナイ宗教に引っかるんじゃないの!

次の瞬間にはグサリと刺されちゃうかもしれないし早く逃げないと。
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