あなたは一体誰?
孝明は私からスマホを奪うように取ると、冷たい眼差しで見下ろした。

「勝手に見るな」

「……リコさんって誰ですか?」

「はぁあ。察してくれよ。息抜きだ」

悪びれることなくそう言う孝明に私の心の真ん中に確実に黒いものが渦巻いていく。

「……私は……別れても構いません」

「あのな、いま離婚とかなったら出世にも響くし、そもそも母さんになんて説明すんだよ!」

孝明は代々医者や政治家を輩出している名家の出身で一人息子だ。

今の暮らしにうんざりしている私は、証拠も見つけた以上、今すぐにでもこの家を出たいが確かにあの世間体を気にする義母を納得させるのは難しいだろう。

「離婚はしない。面倒だからだ! その代わりお前も好きにして構わない。俺もそうする。金はカードも渡してあるだろ、男に貢ぐなり欲しいもの買うなり好きにしろよ!」

「そんなのいらないっ! ただもっと努力するから以前のあなたに戻って欲しいの……っ」

孝明は私のその言葉に僅かに目を開いたあと、口角を上げた。

「……以前の俺ね」

「え?」


孝明はそう言うと私に返事を返すことなく玄関から外へと出て行った。

(私とのこともう一度考えてくれるってこと?)

淡い期待が芽生えそうになって私は首を振った。

(……でも孝明さんは今夜も帰ってこない)

「またひとりぼっちの夜ね」

私は左手の薬指の結婚指輪を見つめてため息を吐いた。

「結婚ってなんだろう……夫婦のやり方がもうわからない……」

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