エリート役員は空飛ぶ天使を溺愛したくてたまらない

3.

 その時、逆の手を引かれて美声が莉桜の耳に届いた。
『彼女は俺の恋人だ。触れるのはやめてくれ』
 声の方を見上げて莉桜はハッとする。五十里だったからだ。
 ローカルの人は手を離しながら、ちょっと聞くに耐えない罵声を浴びせて離れていった。

(こ、怖かった……)
 現地の人は日本人と比べるとやはり大柄だし、声も大きい。押しも強くて断る時も怖い。
「大丈夫か?」
 海外で聞く日本語はどうしてこうも安心するのだろう。
 それに莉桜は今怖い思いをしたばかりだ。なおさら安心感があった。

 莉桜は五十里に向かって丁寧に頭を下げる。
「ありがとうございました。とても怖かったので、助かりました」
「まあ、こっちの人は怖いよな? 君は……機内でも会ったな」
 極力顔が見えないように伏せながら頭を下げたのだが、機内でも助けてもらったのだとバレてしまったらしい。

「本当に何度も申し訳ございません! でも、本当にありがとうございました!」
 バレたものは仕方ない。
 ぺこっと莉桜はもう一度頭を下げる。
 一瞬五十里は驚いたような顔をしていたが、くつくつと肩を揺らして笑うとにっと莉桜に笑いかけた。
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