エリート役員は空飛ぶ天使を溺愛したくてたまらない
「あ! あのシミュレーターと同じ内装なんですよね!」
「そう。客席が広くていいだろう?」
「お客様にもゆっくりくつろいでいただけそうです」
 燃費などの関係から外部の構造を変更するわけにはいかなくて、それでも椅子の幅を広げるにはかなりの開発努力があったと聞いている。
 そんな内情も五十里は話してくれる。

「フラッグシップ機のモデルチェンジだったから、JSAも気合い入っていたしな。もちろん弊社も念願の国産機だったから双方の期待がかかっていて大変なんだ」
 大変なんだといいつつも五十里は楽しそうだった。莉緒も新型機の導入は楽しみだ。今はまだ一機しか導入されないし、国際線での使用がメインとなるのでいつ乗れるかは分からないが、それでもいつか乗ってみたい。

 五十里とは飛行機という共通の話題があることもあって会話もとても楽しい帰り道となった。
 車では三十分ほどの道のりもあっという間だ。
 マンションの前まで送ってもらって、莉緒は運転席に向き直ってお礼を伝える。
「あの、ありがとうございます。忙しいのにわざわざ……」
「さっきも言ったが、莉緒に会いたかったんだ。だから、気にしないで」

 運転席から伸びた手がするりと莉緒の頬を撫でる。ぴくっと身体が揺れてしまった。
 胸が大きな音を立てていて、助手席にいたら運転席の五十里にまでどきどきという音が聞こえるんじゃないかと思う。
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