エリート役員は空飛ぶ天使を溺愛したくてたまらない
 グラスは重ねない。軽く持ち上げるだけだ。繊細なガラスを傷つけないための仕草だった。
「苦手な食材やアレルギーはございませんか?」とにこやかに確認され「大丈夫です」と莉緒は答える。

「さすがはソシアルグランドのソムリエだな。すごくいいワインだ」
「選び方も教えていただいてとても勉強になりました」
「いい生徒だったからだろう」
 生徒とは莉緒のことだろう。ソムリエに実地で教えを請える良い機会でもあって、ついいろいろ質問してしまったのだが、ソムリエはそれにも丁寧に答えてくれたのだ。
 その丁寧な対応までとても勉強になった。

 お料理は一皿目の前菜からカラフルなソースがあしらってあるカルパッチョで旬の白身のお刺身は甘みすら感じるほどのおいしさだった。
「おいしいです!」
「それはよかった。ここはミシュランの星付きで修業したシェフが料理をつくっているんだ」
 シェフが星付きの店で修業していたというのも納得の味だ。

「ワインにも造詣が深く、自分に足りないところは積極的に勉強して、おいしい料理には素直においしいとしっかり食べる。莉緒には惚れ直すばかりだな」
 ものすごくぱくついてしまったような気がしたのだが、そんなことすら五十里のお気に召したものらしい。
「気に入っていただけて何よりです……」
(おしとやかに食べよう)
 心の中でつぶやく莉緒なのだった。
 
 
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