エリート役員は空飛ぶ天使を溺愛したくてたまらない

7.

 軽くため息をついて御手洗いに行くため席を立つと、先ほどの男性が客室乗務員の手を取って、ブースへと引き込もうとしていたのだ。
(全く、機長に逮捕でもされたいのか。そんなことがあれば飛行機を降りられないぞ)
 揉め事は五十里も望むところではない。腕を掴まれた客室乗務員の身体を転倒しないように支える。

「お……っと。酔っているんですか? 先ほどから声が大きくて迷惑しているんですがね。CA(キャビンアテンダント)は確かにサービスをするが、キャバ嬢じゃないんですからね。思い通りになるわけじゃありませんよ」
 客室乗務員を支えた手をそっと離し、男性客にキッパリとそう言うと、男性客はバツが悪そうに顔を背けた。
 指摘されれば威張れることをしていたわけではないのは自覚があるらしい。

「ご迷惑をおかけいたしました」
 そう言って真っすぐ五十里を見てきた客室乗務員はあの彼女だったのだ。ちょうど機内へ乗り込む時に見かけた笑顔が愛らしかった女性だ。
(ビジネスシート担当だったのか)

 真っすぐに五十里を見るようすはきりりとしていて、当然ながら子どもに向けていた可愛らしい雰囲気とは異なる。
 そのギャップが面白いと五十里は感じた。
< 74 / 131 >

この作品をシェア

pagetop